夏は汗の季節。シミになったい、べとついたり、何かと面倒なことが多いもの。でも一方で、運動や岩盤浴などで汗をかくとすっきり爽快になる。汗をかくのが体にいいことなのは間違いないだろう。
 そもそも人間は、どうして汗をかくのだろう? こんな素朴な疑問を、汗治療の専門家、五味クリニック院長の五味常明さんに尋ねてみると、意表をつく答えが返ってきた。
「ヒトが汗をかくのは、脳のため。いい汗をかけなければ、脳もうまく働きませんよ」
 脳、ですか? これはまた意外なところとお話がつながったものだ。どういうことなのか詳しく聞いてみよう。


人類の脳が発達したのは汗のおかげ!?

 人間という生き物の特徴が、並外れて高性能の脳にあるのは、だれもが認めるところ。実は、進化の過程でヒトの脳がここまで発達したのは、汗をかく能力と深い関係があるという。
「脳は、高温に弱い器官。適温は37℃くらいです。でも筋肉や内臓は、活動すると熱を発するので、脳の適温を保つには常に放熱する必要があった。人体が汗腺というしくみを身につけ、汗をかいて体温を下げられるようになったから、脳がここまで発達できたのですよ」
 ほぉ〜。ということは、汗をかくのは人間だけなのですか?
「ええ、体温調節機能として全身から汗を出すのは、人体固有のメカニズムです」
 人間以外の動物、たとえば犬は、運動して体温が上がったとき、口を開けて唾液を蒸散させ、体温を下げようとする。水分を分泌する部分が口腔内に限られているので、蒸散の効率を上げるために口を開けるのだ。
 人間は全身の汗腺(エクリン腺)から汗を出すことで、非常に効率よく体温調節できる。
「この温度調節機能のおかげで、大きな脳がオーバーヒートせずにすむのです」

(人体が汗をかくのは、熱に弱い脳を冷やすため)
脳はオーバーヒートすると誤作動しやすい。人間の巨大な脳を維持するには、熱を逃がすしくみが不可欠。人体は、汗の気化熱によって体温を下げ、脳を守っている。犬は汗をかけないので、口からの蒸散を促すために口を開ける。


「汗っかき」と思う人は"いい汗"がかけていない

「汗の原料は、血液です」と五味さん。エクリン腺は毛細血管と隣接していて、血液中の水分が直接染み出てくる。「水分は、体にとってとても貴重なもの。それを放出してまで体温を下げるのだから、いかに温度調節が重要かわかるでしょう」
 ただし、染み出た水分中には、ミネラルなどの有用な成分も含まれている。そこでエクリン腺は、水分からミネラル成分を再吸収し、極力真水に近い状態になった汗を放出する。
「ところが最近は、汗腺の機能が弱っている人が多いのです」
 体の機能は、使わなければ劣化する。エアコン完備、運動不足といった条件が重なって汗をかく機会が少ない人は、エクリン腺が休眠状態に入ってしまうという。特に、下半身など脳から遠い部位が衰えやすい。
 するとどうなるか。まず、働いているエクリン腺の総数が減る。残ったエクリン腺は、埋め合わせるために大汗をかかなくてはいけない。だが、稼働しているエクリン腺も、ミネラル回収機能が衰えているため、ミネラル分が濃くて粘り気の強い汗が、上半身中心に出てくる。
 粘度の高い汗は、大粒になってだらだら流れるため蒸発しにくく、体温を下げる機能が低い。見た目には、顔や首などに大汗をかいているのに、体温(特に脳の温度)が下がらない。だからもっと汗が出る……という悪循環になる。
「汗を気にしている人はたいてい、この悪循環に陥っています。汗の量が多いのではなく、いい汗がかけていないのです」
 体温を下げにくい"悪い汗"は、「額に500円硬貨が張り付くほど粘度が高い」と五味さん。張り付いた人は、運動や入浴、エアコン断ちなどで汗をかく練習をして、いい汗がかける体を目指しましょう。

(エクリン腺は「濾過装置」 水分を分泌、ミネラルは回収)
汗を出すのは、全身に数百万個あるエクリン腺。隣接する毛細血管をろ過して、汗を作る。一緒に染み出たミネラルなどの有用な成分を再吸収することで、99%以上が水分でできた汗となる。

(いい汗は小粒でさらさら 素早く蒸発する)
いい汗 エクリン腺が元気な人の汗は小粒でさらさら。なめても味がしない。すぐに蒸発して体温を下げるので、汗が引くのも早い。
悪い汗 エクリン腺が弱った人の汗は大粒で蒸発しにくく、体温が下がりにくい。粘度が高く、額に500円硬貨が張り付く。舐めると塩味。



日経ヘルス 2013年9月号

多汗症についての相談(回答内容別)
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